2023.5.30

ドロップ
品川ヒロシ×SWAY

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6月2日(金)にWOWOWで放送・配信がスタートする連続ドラマW-30『ドロップ』。本作は品川ヒロシ氏の自伝的小説が原作で、ヤンキー漫画に強く憧れ、不良になることを決めた主人公が私立から公立の狛江北中へと転校し、不良たちと喧嘩漬けの日々を送る青春群像劇。ここでは、今作で監督・脚本を手がける品川ヒロシ氏とヒデ役で出演するSWAYの対談が実現。今作の魅力や撮影時の裏話、さらに学生時代のエピソードなどについても語ってもらった。

品川さんが自らの青春時代をベースにしたヤンキー作品『ドロップ』は小説から映画、漫画と展開しているビッグコンテンツですが、今回ついに連続ドラマ化。映画同様、ご自身が監督、脚本を手がけていますが、ドラマ化にいたった経緯は?


品川ヒロシ(以下品川):僕が監督したドラマ『異世界居酒屋「のぶ」』を撮っているとき、プロデューサーさんに「ヤンキーって10年に1回ぐらい流行るよね」という話をしていたんです。そこに乗っかるわけではないですけど『ドロップ』って小説、映画、漫画それぞれが違っていて。映画は達也とヒロシの友情、ヒロシの兄貴分のヒデくんとの別れにフォーカスしていたけど、それ以外のもっとくだらない部分とか大人にはない変な友情とか、ほかのメンバーの話を織り込むなら連続ドラマがいいかな、と。実際、ドラマ化にあたってひとりひとりのキャラクターに、より愛情を注げたと思います。

ヒデ役をSWAYさんにキャスティングした理由は?


品川:SWAYって、なんか“お兄さん”ぽいじゃないですか。

SWAY:自覚していないけど、年齢的にそうなってきたんですかね?

品川:僕より全然年下だけど、精神的には全然年上。監督と演者って立場で会っているから敬語とか使ってくれるけど、僕よりずっと大人だなというイメージがあるんですよね。

SWAY:ウソウソ(笑)。

品川:僕が監督した『リスタート』という映画にも出てもらっているんだけど、そのときの座長っぷりというか。SWAYの、みんなを見守る雰囲気っていうのは『ドロップ』にもあって。ヒロシと達也の友情を俯瞰で見るお兄さん的な立ち位置が彼にはすごく合っているんですよ。

SWAY:僕は、映画『ドロップ』でヒデ役だった上地雄輔さんを通してすでにヒデを見ていたので、ハードルは高くてプレッシャーもありました。でも、ドラマ版は映画では描かれていない部分も多いので、同じことをやるとなるととんでもない緊張感がありましたが、ドラマはちょっと現代版というか。変わっている部分があったので自分なりのヒデを演じられたかもという感覚になりました。

SWAYさん自身、品川さんがおっしゃるような「お兄さん的資質」は自分にあると思いますか?


SWAY:そうですね、すぐキレるかキレないかと言ったら、キレない方です。

品川:いや、キレるか、キレないかで言っているわけじゃなからね(笑)。

SWAY:わかりやすく言うと、そこかなと(笑)。学生時代とか、すぐキレるやつを「ちょっと待てよ」と止める側だったので、冷静なところはある気がします。

品川:SWAYとは付き合いが長いんだけど、彼は忙しくても疲れていても機嫌の悪さを出さないんです。誰かに失礼なことを言われて、たぶん腹立っているだろうなというときも冷静だし、すごく楽しくてみんながワーッてなっているときも、ちょっとだけ抑えている。楽しんでないわけじゃなくて、一緒に盛り上がるけどハメを外し切らないんです。僕は喜怒哀楽が爆発するほうで、うれしいときもムカつくときも泣くときも、ぐちゃぐちゃになって子どものまま。昔に比べたら丸くなったって言ってもらえたりするし、顔にも出さないけど、ぶちキレているときはよくあります。

沸点が低いほう?


品川:低いですね。でも怒るっていうより、現場で時間がなくてこのままだと撮り切れないとか、雨とか音の問題で撮影が終わらないというときはやっぱり責任もあるので顔に出ちゃう。そういうところはある意味、正直なのかもしれないです。

SWAY:自分はそこが羨ましいです。それって感情を出して生き切っているということじゃないですか。僕は突き抜けられてないなと思うことがすごく多いので、自分に欲しい部分です。


品川:でも、僕も監督じゃなく演者だったら、冷静でいられるかも。監督がいちばん俯瞰で見なきゃいけないとみんな思うだろうけど、監督が率先して「楽しい! やろうぜ!」ってテンションが高いほうが現場は引っ張られていく。で、撮影時間がないときはちょっとキリッとすれば、みんな「あ、時間がないんだ」って自然に引き締まったりするんです。だから、監督はむしろ感情を出したほうがいいのかなと。ただ、今はコンプライアンス的に「なんでこんなこともできねーんだ!」とか怒鳴ったら、僕は終わりです(笑)。それに、そんなことしても現場はよくならない。特に『ドロップ』なんて、バカなセリフのやり取りをしているときに僕が「おもしろくねーよ!」とか怒ったら、絶対、おもしろくならないじゃないですか。だから、楽しいシーンを撮っているときは楽しく、シリアスなシーンでは演者に話しかけず、そっとひとりにして邪魔をしない。そう考えると、やっぱり僕自身、シーンの感情に流されているのかもしれないです。

SWAY:僕は撮影最終日の品川さんがすごく楽しそうだったのが印象に残っています。それこそ撮影が長引いちゃうんじゃないかってぐらい、気が抜けていたイメージがあります。

品川:みんなで円になってメシを食うっていう、すごくほのぼのしたシーンだったからね。僕、そういうラストシーンが好きなんです。全員が出てきて、半分打ち上げ気分みたいな。

SWAY:楽しかったですよね。

品川:でも、今回は20代の若いキャストがメインで、彼らはやっぱり役者の世界で勝ち上がっていかなきゃいけないとかあるわけで。撮影でもここで爪痕を残して、みたいな戦いがある。そういう彼らを少し年上のSWAYは「こういう時期もあったよね」という感覚で見つつ、自分も頑張らなきゃいけないって気持ちになっていただろうし、さらに上の世代の僕はそれぞれいい時期だなって思って見ている。そういう現場にいられるのは楽しかったです。

話が戻るのですが、先ほどSWAYさんがドラマは2009年の映画より「ちょっと現代版」に変わっている部分があるとおっしゃっていました。具体的にどんなところが変わったんですか?


品川:テーマとしては昭和の人が見たら懐かしい、今の人が見たら「今」って感じに作れればいいかなって。実は映画のときもそこを目指していて、衣装は僕が実際に10代のころに着ていたパーカーにMA-1というファッションなんだけど、脇をちょっと詰めたりして2009年っぽくしていたんです。でも、今のMA-1はオーバーサイズで着るのでドラマもそっちの着方になっている。そうやって、ちょっとずつ時代に合わせて変えていて、でも僕ら世代が見たとき、その変化に気付かないぐらいのさじ加減にしているんです。だから、ボンタンとかも実は昔と違うはき方をしているけど、僕ら世代は「こういう格好してたよね」って騙されると思います(笑)。

ボンタンのはき方は昔と今と、どのあたりが違うんですか?


品川:今はまず、腰ばきをしない。僕らのころはパンツが半分見えるぐらい下げて腰ばきしていたので。あと、ファッションだけじゃなく、たとえばヒデの描き方も映画版の雄輔は男臭い印象だけど、SWAYはもっと甘い。セクシーです。

SWAY:そうでした? 大丈夫かな(笑)。

品川:雄輔はずっと男臭い兄ちゃん。SWAYも男っぽいけど「彼女のユカといるときはそんな感じなんだ」って、違う顔を見せてる(笑)。

SWAY:あまり意識してなかった。なんか恥ずかしい(笑)。

品川:ユカとヒデの関係性も、映画版より恋人感が強くて甘いし。でも、ドラマのほうがふたりの落ち着いた大人感が出てるのかな。

SWAY:確かに、映画はもっとヤンキー感が強かったかも。

品川:映画版はまだヤンキー上がりのカップルって感じだったからね。あと、SWAYは鳶(とび)の作業着を着て頭にタオルを巻いているんだけど、これがめちゃくちゃ似合う。洗練された鳶でした(笑)。


想像がつきます。


SWAY:ただ、演じるうえで僕自身はひとりっ子なので、兄貴的なものって何だろうっていうのは、すごく考えました。ヒデくんは、頼りたくなる兄貴じゃないとダメじゃないですか。

品川:ドーベル(DOBERMAN INFINITY)でも、上じゃないよね?

SWAY:ちょうど中間です。かといって年下のKAZUKIに兄貴肌っぽいところを出しているわけでもないし、出し方もわからない。そこが今回はいちばん欲しいところだなと思っていたんだけど、実際、現場に入ったらキャストのみんなが若すぎて。自分では彼らと精神的にあまり変わらないと思っていたけど、向こうはひと回りもふた回りも上の人に挨拶する感じで来たから、これは大丈夫かなって思いました。

20代から見ると30代はすごく大人の印象なんでしょうね。


SWAY:わかりやすく言うと、彼らにとって僕は中1から見た中3なんだと思います。でも僕自身は中2のスタンスだと思っていて、中1に対してどう接したらいいのかわからなかった。上にもなりきれないし、同学年でもないという感覚だったんだけど、彼らはしっかり中1と中3の感覚で来てくれて、いい意味で世代ギャップがあったから、ちゃんと“兄貴分のヒデ”になれました。

品川さんは演技指導などをするとき、相手の年齢によってアプローチは変わりますか?


品川:まったく変わらないです。僕は世代間ギャップっていうものをあまり感じてなくて。そもそも自分は10代のとき本当に『ドロップ』みたいな感じで、中3以降ほとんど学校に行ってなかったから、同年代でも合わなかった。強烈な縦社会のなかで生きて窮屈だなって思ったこともないから、ゆとり世代とかZ世代とか言ってもピンとこない。どの世代も理解できないからこそニュートラルだったりするので、若い世代の演者にもギャップは感じなかったです。でも、若いキャストに「品川さんは自分の父親と同い年です」とか言われたりすると「えー‼︎」って、毎回言っていましたけどね(笑)。

SWAY:親子ぐらい差があるって、びっくりしますよね。

品川:でも、そういったリアルな世代間のやりとりも含めて、ドラマではそれぞれの関係性とか立場っていうのを描いていて。たとえば、達也と親父の関係、ヒデとヒロシの関係、ヒロシとゲーセンの店長の関係とか、全部が違うし、しかも大人たちも全員おかしい人っていう世界観になっているんです。

まともな大人が不在?


品川:そう、本当に異世界(笑)。唯一まともなのがヒデかな? いや、彼もヒロシに(ケンカに)「行け!」とか言っちゃう人だから、ダメですね。親父も親父らしいことは言わないし、結局、常識人はユカだけです。(北野)武さんの『アウトレイジ』は「全員悪人」だったけど、こっちは「全員バカ」(笑)。そのバカ度合いをおもしろがって、愛してくれたらいいなと思いながら撮っていました。

SWAY:あと、おもしろいなと思ったのは現場で若い子たちが「最近、ヤンキーっていないですよね」って話していたこと。確かに、今ってコンビニの前でたむろしているヤンキーとかまったく見ないじゃないですか。不良を間近で見たことがない子たちがヤンキーを演じるってところも、現代版『ドロップ』のおもしろさかなと。

品川:そうだね。僕はよく「てめぇ、なめてんじゃねーぞ‼︎」ってセリフとか書くけど、若い子はリアルに言われたことも、聞いたこともないと思う。僕らが子どものころは「小僧!ごらぁ!」って下町のおじさんとか、普通にいたけど。

SWAY:知らないおじさんに怒られてました(笑)。


若い世代はリアルではヤンキーと接してないのに、なぜエンタメの「ヤンキー」は好きなんでしょう?


品川:時代劇と同じで、もはやヤンキーは異世界ファンタジーなんですよ。僕ら、時代劇を観てリアリティがないと思わないじゃないですか、リアルを知らないのに。今の若い子たちもそれと同じで街でヤンキーを見ないけど、ヤンキー映画やヤンキー漫画を子どものころから見ているからなじみがある。リアリティを感じているんだと思いますよ。

SWAY:わかる! それはありますね。

ヤンキー=現代の時代劇説、とても納得しました。ちなみに、おふたりは『ドロップ』世代だった10代のころにやっておけばよかったなと思うことはありますか?


品川:英語。あとは格闘技。アクションシーンを撮るとき、自分も動けるほうがやっぱりいいですよね。まぁ、でも、実際、子どものときから英語や格闘技をやっていたら、お笑い芸人にならず格闘家の世界に行くか、若いうちにアメリカに行っていたと思う。今、ここにいる未来は変わっちゃっているんじゃないかな。

SWAY:パラレルだ。

品川:そう。だから、今の脳みそを持って学生時代に戻るなら、英語と格闘技だなって話です。

SWAY:僕は宿題をやっておけばよかった。学生のころ、宿題をやるのが面倒臭くて、ずっとサボっていて。夏休みの宿題も出さないのが勝ちみたいな、それで先生に怒られても、成績が下がるだけなので別にいいやって思っていたんです。でも、自分がすごい面倒臭がり屋なのは宿題をやらなかったせいだなって大人になってから気付いて、やっておけばよかったって思うようになりました。

面倒臭いことを我慢してやる「習慣」を身につけておけばよかったと。


SWAY:そうです。家に帰ったら1時間でも勉強するとか、小さいころから習慣づけていたら、面倒臭くても自動的に動く身体になっていたんだろうなって。だから、今、無理やりやっています。朝、起きたらちゃんとカーテンを開けるとか、些細なことだけど、そういうルーティーンを身体に覚えさせるようにしているんです。

品川:先生は宿題をやってこない子を叱るより、やってきた子を大げさに褒めるほうがいい気がする。子どもって誰かが褒められると「自分も褒められたい」って、自然にやる気を出すと思うんですよ。

SWAY:あと怖い先生より、優しく叱る先生のほうがグサッとくるっていうのもありますよね。一方的に怒られると反発しちゃうけど、優しく叱られると「ごめんなさい」って思う。

「北風と太陽」の心理ですね。


SWAY:それです。この記事を読んでいる学生さんには、とりあえず「宿題はやっておけ」って優しく伝えたいです(笑)。

では最後、「ドロップ」をさらにおもしろく観られる注目ポイントや見どころを教えてもらえますか。


品川:このドラマは「大人になって後悔したくねえからバカやってんだ」というコピーがついていて、本当に出てくる子たちはバカなことばっかやって、バカなことばっか言ってるんだけど、なんか愛くるしい。アクションとか人間関係とか見どころはいろいろあるけど、いちばんはそこで「バカな子たちだね」って、ケラケラ笑って楽しんでもらえるドラマだと思います。

SWAY:僕がやっているヒデにはヒロシたちのメインストーリーとはまた別のサブストーリーがありまして、そこも楽しんでもらえたらうれしいです。大人になってからもまだ踏ん切りがついていない、終わり切れないっていう、ヒデの話がドラマでは描かれているので。

品川:誰なのかはここでは言えないけど、ヒデとある人の間ですごくグッとくるセリフがあるんです。ほんの二言、三言の短いセリフなんだけど、現場でもそこは大人チーム全員がうるっとしていました。そこで「いいね、これ」ってドラマ全体が締まった気がするので、そんなところも観てほしいです。

DRAMA information
連続ドラマW-30『ドロップ』

WOWOW 6月2日より毎週金曜日23時~放送・配信〔第1話無料放送〕

出演/細田佳央太 板垣瑞生
森永悠希 林カラス 大友一生 田鍋梨々花 中村里帆
佐津川愛美 SWAY(劇団EXILE/DOBERMAN INFINITY) / 佐田正樹(バッドボーイズ)
金城碧海(JO1)  / 波岡一喜
三浦誠己 深水元基 ほか
監督・脚本/品川ヒロシ
原作/品川ヒロシ『ドロップ』(リトルモア刊)
公式ホームページ/
https://www.wowow.co.jp/drama/original/drop/


photography_後藤倫人(UM)
hair&make_服部有莉亜
text_若松正子