2023.10.4

『天狗の台所』
駒木根葵汰×塩野瑛久

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田中相による漫画『天狗の台所』が連続ドラマ化され、BS-TBSの「木曜ドラマ23」枠で、10月5日より放送が開始となる。今作は、自分が“天狗の末裔”であることを知った14歳の少年・飯綱オンと、日本で俗世を離れて暮らす兄の飯綱基、ふたりの四季折々の食事や暮らしが丁寧に描かれていく。ここでは、基役の駒木根葵汰さんと愛宕有意役の塩野瑛久の対談が実現した。ドラマの見どころや撮影時の裏話などをたっぷりと語ってもらった。


おふたりは今作が初対面ですか?


塩野:以前、『探偵が早すぎる 春のトリック返し祭り』というドラマでお会いしているんですけど、そのときは一瞬だけ挨拶をする程度で。

駒木根:僕はゲスト出演だったので行って撮って終わりという感じで。自分のことだけで精一杯で周りのことを見ている余裕はなかったので、塩野くんとちゃんと話をしたのは今回が初めてです。

塩野:最初、料理のリハーサルがあって、そのときにお会いしたのですが、僕は勝手に葵汰くんは明るいイジられキャラの感じだと思っていました。でも意外とそうじゃなかった。僕より5つ下ですが、そんなのを感じないぐらい落ち着いていて物怖じもしないので、そこはギャップでした。

駒木根さんはほかのインタビューでも「怖いものはありません」とコメントされていて、若いのに肝が座っているなと思いました。


駒木根:そうですね。怖いのはお母さんぐらい?(笑) いくつになってもたまに怒られると背筋が伸びます。

塩野:そうなんだ(笑)。

駒木根:でも、僕も塩野くんに会う前はよく知らないのに陽キャのイメージを持っていました。何でだろう……? あ、わかった! 『HiGH&LOW』だ! あのときのサングラスにチェーンをかけた、ちょっとチャラい役の印象が強かったんだ。今、わかりました。

塩野:今わかったの? これまで何回も一緒にインタビューを受けてきたのに?(笑)

駒木根:今、謎が解けました(笑)。でも、実際の塩野くんは全然チャラくなくて周りが見えていますし、いろんな人から慕われているお兄ちゃんという感じです。ただ、今でもあんな、おばあちゃんがつけているようなチェーンをあれだけカッコよくつけられる人はなかなかいないと思っています(笑)。

塩野:ありがとうございます(笑)。

そんなおふたりが出演しているドラマ『天狗の台所』は天狗の末裔である一族の物語。原作は人気グルメコミックとしてファンの多い作品ですが出演が決まったときの感想をお聞かせください。


駒木根:まず、主人公を任せてもらうというのはすごくうれしかったです。同時により一層身が引き締まる想いもあって、やっぱり不安が第一にありました。原作ありきの作品は初めてだったので、僕が演じる飯綱基のキャラクター像を崩さず、でもドラマとしての良さを見せていくにはどうしたらいいか、それをまず考えました。原作とはちょっと違う印象になってしまうかもしれないですが、僕にしかできない表現や見せ方というものを意識して演じようと気合いが入りました。

基は天狗の末裔でも珍しい“羽が生えた”人物。羽をつけたときは興奮したそうですね。


駒木根:羽をつけるなんてたぶんもう一生ないですから。でもつける回数があまり多くなかったのがちょっと心残りです。羽をつけて東京の街とか歩いて人を驚かせたかったです(笑)。

意外と違和感ないかもしれませんね(笑)。


駒木根:そうですか? じゃあ、プライベートでもつけようかな。

いいと思います。


駒木根:絶対ウソ!(笑)

一同:(笑)

塩野さんはいかがですか?


塩野:僕は天狗家の中でもいちばん権威のある愛宕家に生まれた有意という役なのですが、最初にお話をいただいたときは正直どうしようかなと思うところもあって……。というのも前作も『かしましめし』というご飯もののドラマで、食を通じてメッセージを伝えるところが被ってしまうかなと思ったんです。でも、『天狗の台所』は設定も違いますし、あとはプロデューサーさんが直々のお手紙で熱い想いを伝えてくださって、「僕でよければ、ぜひ」と出演を決めました。役柄については原作ものをやるとき、僕はできるだけ原作のキャラに寄せていく部分があって。今回は漫画なので完全に寄せるのはさすがに無理ですが、自分なりの有意を探していくといいますか。有意は基と基の弟のオンの橋渡し的な役割があるんですけど、そのポジションは普段の自分にも近い部分があるので意外と入っていきやすいなと思いました。

塩野さんもプライベートでは橋渡し役になることが多いんですか?


塩野:僕自身、僕の好きな友人と友人を会わせたりしますし、その友人同士が自分抜きで会うようになっても全然気にしないです。ただ橋渡しというより板挟みになることもあって、家族間でもちょっとギスギスしたとき全員が僕を頼るって現象が起きがちで。直接言いにくいことを伝えたいときは僕を一旦クッションにするとか、そういうことがよくあります。

中和剤の役割になると。争いを好まない穏やかな性格なんですね。


塩野:良く言うと穏やかですけど……。

悪く言うと?


塩野:人に期待をしないんです。過度な期待をしないのはお互いが穏やかに健やかにいられる秘訣なのかなという気がします。

同意です。今作の登場人物も有意をはじめ、基も穏やかというか。基本優しい人が多いですよね。


駒木根:基は14年間、自然の中で隠遁生活を送っていて心から食というものを愛していますし、食作りには絶対に手を抜かない人です。だから周りから見るとちょっと堅物に見えてしまうかもしれないですが、愛情を持って植物や動物と接しています。でもそこにニューヨークで育った弟のオンがやってきて基はお兄ちゃんとしてしっかりしようとするんですけど、やったことがないから、いたらない部分が多かったりします。そういうところもまた人間味があって、僕は好きだなと思いながら演じました。

職人気質の不器用な人なんですね。


駒木根:そうですね。完璧主義がゆえにほかのことが手につかない。先ほども言ったとおり基は天狗の家系の中でも200年ぶりに羽が生えた珍しい人物。そのせいで子どものころからいろいろ抱えているものがあって、それを共有できるのが同じ一族の有意で、天狗の一族としての葛藤を互いに腹を割って話せる唯一の相手なんです。

ファンタジーな設定ではありますが、食と自然を通して「人間」を描いている物語ですね。それぞれの役を演じて改めて感じたこと、作品から受け取ったことはありますか?


塩野:今、生きている、この空間は当たり前じゃないんだなということです。ここを飛び出せば僕らが知らない誰かの努力だったり、不便なことがたくさんあって、それがあるからこそ“当たり前”が成り立っているということをこの作品を観るとわかってもらえる気がしました。ただ、それは決して押し付けるものじゃない。心が動くか動くかないかはその人次第で本人に委ねればいいことですし、「あなたはどう思う?」と問いかけてくる作品でもあると思いました。

駒木根:僕も塩野くんと同じようなことなんですけど、食の大切さといいますか。自分の身にどんなことがあっても誰かとケンカしても、やっぱりお腹は空きますし、おいしいものを口に入れればちょっとでも気が楽になって笑顔になるじゃないですか。それぐらい「食」は心身を作るうえで大事なもので、忙しいと誰が作ったかわからない簡単なもので済ましてしまったりしますが、自分の身体の一部になるものとしてもう一度、見直してもいいんじゃないかなと。そういう人生を豊かにするきっかけがこの作品にはあって、アナログであってもそういう生き方もあるんだよということをひとつの提案として、知ってもらえたらいいですよね。

今作は料理をするシーンが美しく象徴的に映し出されていて、それを観るだけでも心が安らぎました。


塩野:でも、撮影で料理をするって難しいんです。僕はそこまで料理パートは多くなかったですが、家でやるのとは全然違う。自分ひとりなら、とろとろやってもいいし、野菜の形がいびつでも別にいいですけど、撮影となると丁寧にテンポよく、数秒間でおいしそうに切らないといけないんです。だから「料理を作っているイメージカットってこうだよな」というのを頭に入れて、そこから大きく外れないようにすごく集中してやりました。

駒木根:本当にまったくそのとおりでした。僕も普段家で作るときは歪んだっていいし、「食べれたらいいでしょ」という感覚ですけど、撮影は見られているので失敗できない緊張感があります。さらに「基だったらこう切るよな」というキャラクター性もあるので、そこも忠実に所作や姿勢なども意識しました。

おふたりとも美しい調理姿で、それすら画になっていましたけど。


塩野・駒木根:ありがとうございます(笑)。

撮影は夏に行われすべて終わっているそうですが、自然豊かな環境でひと夏を過ごしてみていかがでしたか?


駒木根:いい夏になりました。長い宿泊撮影も自然豊かな場所で暮らすのも憧れで、それを同時に体験できたのも良かったですし、やっぱり同じ釜の飯を食うのは絆を強くするという意味でもすごく大切だなと。ちなみに塩野くんは大人で落ち着いているのにスイカを目の前にするとすごく笑顔になるんです。そういう一面を見られたのも良かったですし、あとはみんなで花火をしたり、本当に夏を満喫できました。

撮影後に飲みに行ったりはしなかったんですか?


駒木根:全然ないです。そもそも周りに何もないので。

塩野:コンビニもないんです。

駒木根:だからまさに“合宿”。オン役の越山敬達くんがいるから撮影は夜8時に終わるんですけど、それ以降は各自部屋に戻って自由に過ごすという感じでした。朝が早いので僕は毎晩10時に寝ていて、朝は敬達くんの部屋に「起きろ!」って起こしに行ったりしていました(笑)。あとは塩野くんの寝起きのぼーっとした顔や風呂上がりの姿を見せてもらったりとか。

貴重ですね(笑)。


塩野:いやいや、そんないいものじゃないです。途中で葵汰くんと一緒にラジオをやっていたんですけど、そのときも肌荒れ用の緑の薬を顔に点々と塗った状態でやっていました。

駒木根:それもリアルな塩野くんですからね。腹の内をわかりあえる数少ない人だなって思うぐらい密度の濃い1ヵ月でした。

塩野:僕は1回ぐらい葵汰くんと飲みに行けばよかったなと思っていて。何もないところで本当に毎晩帰って寝るだけでしたが、探せば食事できるところぐらいはあったかもしれない。そこはちょっと反省点です。

では、そのリベンジは東京でぜひ。最後に出演したおふたりだからこそわかる、とっておきの注目ポイント的なものがあれば教えていただけますか?


駒木根:“むぎ”かな。

塩野:あ~、むぎね!

駒木根:むぎっていう名前のワンちゃんが出てくるんですけど、オンが動物と話す特殊能力を持っているという設定なので、むぎにもセリフがあるんです。それを本当に話しているように見せるのが大変で、そんなむぎのお芝居も見てほしいです。

塩野:僕は何だろう? 特にないかな……。

駒木根:あ! 僕、もうひとついいですか? 今回は僕らが住んでいる家のセットがとてつもなくすごいんです。美術さんが一から作り上げてくれたんですけど、料理する台所があって机があって、その裏側にある食材の棚の瓶詰めなども全部集めてくれて、ものすごく手が込んでいるのでぜひ注目してください。

塩野:それだ!

駒木根:じゃあ、僕の発言は全部塩野くんのコメントってことで(笑)。

塩野:いやいや(笑)。あ、でも、僕も注目ポイントありました。今回はすべてオン役の敬達くんの目線で話が展開していまして。彼の成長過程だったり等身大の姿が映像に反映されているので、そこも楽しんでいただけるとうれしいです。視聴者の方もオン目線になってこの物語を追ってもらうと、またおもしろい見方ができると思います。


DRAMA information
『天狗の台所』

BS-TBS、BS-TBS 4K 2023年10月5日(木)スタート、毎週木曜23:00~23:30
※全10話

原作/田中相『天狗の台所』(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
脚本/岨手由貴子、山田能龍、天野千尋、熊本浩武、ナラミハル
監督/長島翔、下田彦太、林田浩川、川井隼人
プロデューサー/鈴木早苗、守澤崇、五箇公貴、向井達矢
主題歌/「人人」折坂悠太(ORISAKAYUTA)
音楽/VaVa(SUMMIT, Inc.)
製作/BS-TBS maroyaka
制作/ラインバック
出演/駒木根葵汰、塩野瑛久、越山敬達 ほか

photography_野呂知功(TRIVAL)
styling_千葉良(AVGVST)[駒木根葵汰],山本隆司(style³)[塩野瑛久]
hair&make_Keita.(AVGVST) [駒木根葵汰],有村美咲[塩野瑛久]
text_若松正子