2023.2.24

サンソン
佐藤寛太

  • フリー
突然の中断を余儀なくされた初演から2年が経ち、舞台『サンソン -ルイ16世の首を刎ねた男-』がついに再始動。本作は18世紀のフランス・パリを舞台に、ロベスピエール、マリー・アントワネット、ルイ16世らの首を刎ねた死刑執行人シャルル=アンリ・サンソンの数奇な運命を描いた物語。インタビューでは、ジャン=ルイ・ルシャール役の佐藤寛太に作品に対する想いや役どころなどについての話を聞きました。


『サンソン —ルイ16世の首を刎ねた男—』は、年に一度出会えるかわからないくらい自身にとって貴重な作品とのことですが、今の率直な気持ちからお聞かせください。


本当に心の底から楽しみでしかたないです。まず演出を担当している白井晃さんにお声がけいただいたことがすごく大きいです。白井さんの演出ということで、作品の内容を知る前に「やらせてください!」と言ったくらいで(笑)。白井さんとは2021年に出演させていただいた舞台『音楽劇「銀河鉄道の夜2020」』でご一緒させていただいて、それ以来仲良くさせてもらっているのですが、台本を読んだときに驚いて。

それはどういうことですか?


今回僕が演じるのは、蹄鉄工の息子であるジャン=ルイ・ルシャールという役柄なのですが、僕の性格を知り尽くしているかのようなキャラクターで(笑)。勝手な想像ですが、この役を僕にぶつけることで役者としての成長を促してくれている感じがして。もう感謝の気持ちでいっぱいです。その期待に答えたいという気持ちだったり、心のなかでいろんな熱い想いがメチャクチャ渦巻いています。僕の今後の役者人生のなかで、過去を振り返ることがあると思いますが、この作品は「あのときが確実にターニングポイントになったな」と思えるもののひとつになると確信しています。

白井さんからは何を求められていると思いますか?


何ですかね(笑)。ただ野球で例えるなら、僕はどんな舞台でもものすごく空振りをするんです。ホームランか三振かという、完全なボール球でもフルスイングしちゃうタイプ(笑)。おそらく白井さんは僕にホームランを求めていると思うんです。ホームランを打ったときに何かしらお芝居の感覚をつかんで、そこからさらに上のレベルへとつなげる。ホームランを打った次の日もまったく同じというわけにはいかないですが、でも打つための基本的なカタチはできているわけですから、ホームランを打つ可能性としては日に日に上がっていっていくわけで……。上手く言えないですが、白井さんはおそらく僕のそういう部分に期待してくれているんだと思います。いつか白井さんの演出に対し、自分なりの役柄やお芝居の解釈を説明して「(そんな解釈があったか!)寛太すごいな!」って言わせたいです(笑)。


物語は、18世紀パリに実在した死刑執行人サンソンの物語となっていますが、どんな印象を受けましたか?


白井さんともう一度お芝居ができるということがうれしすぎて、最初は正直、あまりピンときていなかったんです……(笑)。ただ改めて台本をちゃんと読んでみたら、ものすごく“強い作品”だなと感じました。舞台となっている18世紀のフランスはまさにフランス革命真っただなかで、 マリー・アントワネットやルイ16世などが斬首刑になっています。そんな人たちの首を刎ねたのは稲垣吾郎さん演じる死刑執行人、シャルル=アンリ・サンソン。激動の時代を生きた彼にまつわる本当にあった物語で、数百年前に実在した人たちがたくさん出てきますし、激動の世の中をたくましく生きています。個人的には、それまで絶対的なものとして君臨していたものに対し、当時の若者たちが溜まっていた鬱憤を吐き出そうという意識が強かったのかなと思います。それと同時に集団で動くことの危うさも感じました。正義が正義じゃなくなるといいますか、また正義とは何だろうっていう。みんなそれぞれ思想が違うにも関わらず、集団になるとひとつの波になってしまうから、そこで起こる暴力性みたいなものも含めて怖いなと思いました。ただ、自分がお芝居を通じてそのときの空気に触れられて、しかも素晴らしい台本を通じて表現ができるというのは本当に贅沢なことだと思います。数ヵ月間、その時代の人々や文化に想いを馳せて浸り続けることができるって、役者冥利につきます。本当にありがたいです。

今回はヨーロッパの歴史物語ですが、演じる際の気持ちとしては現代劇とは違いますか?


どうですかね。ただ観る側の人間として、たとえば日本人が西洋の演目をやることに対して、どこか違和感があるかもしれません。日本人と西洋人では外見がまったく違うじゃないですか。カツラをかぶったり見慣れない衣装を着て演じるわけなので、僕も昔はそこに違和感を感じたりしていました。でもこの仕事を通じ、演者の皆さんやスタッフさんたちの現場での熱量や、活き活きと躍動するキャラクターに触れることで、外見の違いなんてすごく些末なことだなと、今は思っています。物語を通じて本当に伝えたいことは、自分たちの熱意で届くはずですから。


その時代にご自身が生きていたらと考えたりもしますか?


考えますね。やはり知識としてどんな時代なのか、たとえば昔は懲罰の方法ひとつをとっても鞭打ちの刑や焼きごてなどいろいろとあるじゃないですか。それらを通じ、これまでの世の中には、自分たちが生きるうえで逆らえない人間や仕組みが存在したということを感じたり、知るということがすごく興味深くて。これはお芝居しながら勉強している感覚に近いのかもしれません。ただ“勉強”というとちょっと堅い感じがしますが、どんなことであれ知らないほうがいいということはないと思っています。というのも、知らないとものの見方が一方向しかない。でもいろいろと知っているといろんな方向から見られるわけですから。この作品が終わったあと、僕は作品に対する感じ方はもちろん、世の中の価値観や常識などに対する感じ方も違っていると思いますし、自分がどういう活動に興味が湧くかも違うと思いますし、人としても俳優としても感性や価値観が変わっていると思います。変わることは怖いですが、それと同じくらいすごく楽しみです。また、観ていただく方も価値観が変わるまでいかなくても、琴線に触れられたらいいなと思っています。それは一種の暴力かもしれませんが、作品に触れるというのはそういうことなんじゃないかなって。劇場を出たあと、作品のインパクトが大きすぎて電車に乗るまで一回も携帯に触れなかったみたいな、衝撃を受けすぎて抜け殻みたいになったりという、そんな感じになってくれたらこれほどうれしいことはありません。

座長の稲垣吾郎さんを筆頭に、出演者は先輩だらけですが、お気持ち的にいかがですか?


刺激的ではありますが、ものすごく楽です。というのも、皆さんご自分の世界観や芝居論みたいなものをお持ちの方たちですから、当たり前の話ですが、僕があれこれ言うこともないので、面倒を見なくていいわけです。だからそのぶん、自分のお芝居に集中できます。若いときや出始めたばかりのころは、日によってメンタルに波があったりしますが、そういう人もいないですし、そもそもお芝居に対して本気の姿勢で取り組んでいない人は、白井さんの作品には呼ばれないと思うんです。今回出演される皆さんは百戦錬磨じゃないですが、これまで、いろいろな現場を通じてたくさんの価値観を磨いてきている方たちだから、みんな自分というものが確立されていますし。先輩のお芝居をそばで見ているだけでいつも感動しているんですけど、感動って心が勝手に動くことですから、役者にとってこんな素晴らしい現場はないです。


本作は人間が生きること、また死ぬことについて考えさせられる内容になっていますが、作品に触れたことでご自身のなかで死生観の変化はありましたか?


変化したかどうかは別として、考える時間が増えました。年齢や環境も要因としてあると思いますが、これまでは心のどこかで「死んだら死んだでもう仕方ないっしょ!」と思う瞬間があったんです。僕は登山が好きなのですが、山登りをしている最中に何度かそういう瞬間に遭遇することがあったので。ただ今回の作品で描かれている人間の生死は、尊厳や信念、見栄として死であったり、しかもそこに時代背景が複雑に絡みあっているものなので、生死の価値も変動して難しいです。死ぬことって怖いことであるにも関わらず、毅然と受け入れる姿勢だったり、そこに関してはいつも悩みながら取り組んでいます。みんなそうなのかもしれませんが、今回の僕の役柄は死への向き合い方と自分の生き方が直結して、それが行動に表れているから、そこを自分のなかで正解を見つけられたらお芝居として表れるだろうし、この役をつかんだと言えるんだと思いますが、でもその答えって一生わからないと思うんです。何か出たと思っても、実際にその状況になってみないとわからないじゃないですか。でもその瞬間に瀬戸際に立たされた人って、どう思うんだろうというか、それを考えるのが楽しみです。

最後に、楽しみにしてくださっている皆さんにメッセージをお願いします。


舞台を観に行くことはハードルが高いと思います。実際に僕自身も、役者をやる前の学生のころは観たことがなかったですし、想像すらしたことがありませんでした。僕はバイトもしていなかったので、当時の僕にとっての1万円(実際の金額は1万円前後)ってお年玉のときくらいしか見ない、かなり貴重なものでした。でもこれだけは断言できます。この作品はそんな貴重な1万円を払ってでも観る価値のある作品です。観劇後は1万円以上の、今まで体感したことのない感情をお土産として持ち帰ることができます。まだ舞台を観たことがないという人は特に、この作品から体験してほしいです。EXILE TRIBEファンの方であれば、同じ金額ならドームでライヴを楽しむほうがいいという方もなかにはいると思います。でも昔から日本に存在する“舞台”という総合芸術もすごいんです。特に今回は白井晃さんという天才が脚本を担当していますから、「生きていてこんな体験ができるんだ」ということを思わせてくれる作品になっていると思います。もちろん目の肥えた演劇好きの方も心の底から楽しんでいただけると思います。この作品を観たあと、どうやって帰ったのか覚えてないとなるくらい、観る人に衝撃を与えるようなすごい物語になっていますので、ぜひ劇場に足を運んでください。絶対に後悔させません!


STAGE information
『サンソン -ルイ16世の首を刎ねた男-』
2023年4月14日(金)〜4月30日(日) 東京建物Brillia HALL
その他、大阪・松本公演あり
料金/S席¥13,500、A席¥10,000、松本公演のみB席¥7,500 (全席指定)
演出/白井 晃
脚本/中島かずき(劇団☆新感線)
音楽/三宅 純
原作/安達正勝『死刑執行人サンソン』(集英社新書刊)
出演/稲垣吾郎、大鶴佐助、崎山つばさ、佐藤寛太、落合モトキ、池岡亮介、清水葉月、智順、春海四方、
有川マコト、松澤一之、田山涼成、榎木孝明 ほか

[公式サイト]
www.sanson-stage.com

photography_後藤倫人(UM)
styling_平松正啓
hair&make_Emiy
text_オオサワ系


【衣装クレジット】
《tieorNOT》のジャケット¥60,500、ニット¥37,400、パンツ¥36,300、
《opposite of vulgarity》のシューズ¥11,550(すべてHEMT PR)
【お問い合わせ先】
HEMT PR
東京都渋谷区神宮前2-31-8 FKビル3F
03-6721-0882